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失敗の本質 [本]

「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」 戸部 良一 他



この記事に書いたようなわけで今更読みました。

うん、なるほど、確かに一読の価値はある。
名著には違いないが、何十万部も売れるというのはなにか不思議な感じもする。

本書は大東亜戦争の敗戦をケーススタディとして、組織としての日本軍の何が問題であったのかを分析し、米軍との比較から日本軍の失敗の本質を探る、という本でして、大きな要素としては「戦史」と「組織論」です。

1984年に刊行されて以来のベストセラーで、10年くらい前にはビジネス界のカリスマがこぞってこの本をプッシュして、一種のビジネス書としてブームになったと記憶する。
ビジネス書として読んだ場合、「組織論」の部分がクローズアップされるわけですが、それを実践的に活かせる立場の人というのは、組織の構造を自分の権限で改変できる立場の人であって、言ってみれば社長とか人事部長とかであって、しかも組織の成員が数十人ではあんまり意味がなくて、数百人以上の規模の組織構造に権限を持つ人、ということになる。
これに該当する人ってそんなにいないと思うんだけどなぁ。

はっきり言って、一般のビジネスパーソンがビジネス書として読んで役に立つような本ではない。
せいぜい「そうなんだよ、上は現場の苦労なんてわかっちゃいないんだよ。まったく、今も昔も上層部ってのはどうしようもねぇバカだな」と共感するくらいなものである。

一方で「戦史」の方を入り口として考えてみると、あの戦争に興味があるけれどちゃんとわかっているわけではない、という私のような一般庶民にとってはなかなか面白く読める本である。
日本軍の失敗を代表する6つの戦闘がどのような戦況の中でどのように行われたのかを見ることで、いかに日本軍が負けたかという経過と、あの戦争の大まかな流れがつかめる。

本書では米軍との対比によって日本軍の組織としての敗因を洗い出していて、それを読んでいると日本人というのはなんと低俗で愚かな民族なのだろうという気がして落ち込みます。

例えば、インパール作戦が失敗なのは誰の目にも明らかな状況において、言い出しっぺの現地指揮官は作戦中止を自ら言い出せず「私の顔色で察してもらいたかった」といい、上官の方も「向こうから上申してくるのが筋であろう」と中止の命令を下さなかった。
こんな中学生の恋愛みたいなことを一か月以上やっている間に、前線では数多くの兵士たちが死んでいった。

一方で、日本軍の唯一の武器とも言える精神力はやはり素晴らしかったようで、例えばガダルカナル島の戦闘において、アメリカの指揮官が「きさまたちになくて敵にあるのはガッツだけだ」と言って自軍の海兵隊員を叱咤激励したというエピソードもあって、
なんていうか……こういっちゃなんだけど……
ウケる、と思ってしまった。(ごめんなさい)

本書が洗い出す、日本軍の敗因となった組織としての特色は、現在の日本における組織にも色濃く受け継がれているように見える。
特に大きな組織ほどその傾向は強いと思う。
しかしまあ、そんなことを思ったところで、私のように小さな組織の末端の緩い構成員にはどうすることもできないわけで、トップエリートたちは日本軍の失敗を教訓にして頑張ってほしいと思います。


ところで、そもそもアメリカ相手の戦争は国力の差からして到底勝ち目のない戦で、なんで開戦に踏み切っちゃったんだ、という疑問がまずある。
それはそれとして、同じ負けるにしたって、もうちっとうまいやり方があったんじゃないか、という疑問も一方で湧いてくる。
この本で取り上げられている戦闘の経過を見ていると、作戦情報がダダ漏れだったとか、意思疎通が図れていなかったとか、様々な敗因があるのだけれど、運の要素も少なくないように見える。
そもそも戦闘というのは不確実性の連続なのだから、例えば同じ戦争を100回やったとして、うまいことやれば1回くらいは勝てるシナリオがあったんじゃないか、なんて考えてしまう。

やっぱり万に一つもそんな可能性はなかったのかしら。
日本がアメリカを無条件降伏させるなんてのはまず無理としても、悪くない条件で和平交渉に持ち込める可能性は皆無だったのだろうか。
せめて数々の玉砕戦と二つの原爆を食らうことなく終戦を迎えることはできなかったのか。

そんな、存在しなかった歴史に思いを馳せる本です。



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